温排水(Thermal discharge)
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 温排水は製鉄所や化学工場、あるいは火力、原子力発電所等の汽力発電所から排出される高温排水の総称である。排水量の多い汽力発電所の場合、ボイラーで水を水蒸気に変えてタービン(羽根車)を回転させて電気を作り、水蒸気を冷却して水に戻し、これを繰り返すことによって発電を行っている。わが国の汽力発電所は沿岸部にあるため水蒸気の冷却に海水を用い、概ね水温を7℃上昇させて海域に放流している。温排水は温度が高いため海水密度が放流海域の海水に比べて小さくなり、温排水は海表面を中心に広がる特性を有している。わが国では1970年代から温排水の放流に伴う環境影響に関する調査・研究が進められてきた。この結果放水口近傍の温度変化域において生物相が変化する場合があることが明らかとなっている。このため、場所によっては水中放流方式等により温排水の拡散範囲を狭める方式も採用されている。
一方で、温排水は水産増養殖に活用されているほか、農業分野においてもヒートポンプを用いた温室栽培(野菜、花卉類)に利用されている。
 海洋深層水を発電所冷却水として利用する研究が進められている。既存の汽力発電所では表層~中層の海水を取水するため、冷却水として使用する海水温に季節変化がある。このため熱交換器の設計温度は通常夏季の高水温条件に設定されている。深層水は、低温で季節的に大きな変化がなく、この特徴を利用すれば発電効率が向上し、火力発電所から排出されるCO2を削減できることが明らかになっている。また低温な深層水を熱交換後に放流した場合、温度変化が起る海域面積を小さくできることが予測されている。
 深層水を水産増養殖に利用する場合、低温なため利用できる種類が限定されている。発電所での熱交換後の排水を利用すれば多様な種類の魚介類の増養殖に利用でき、また熱交換前の深層水の一部を利用すれば安価な深層水が得られ、居室や栽培施設の冷房利用の実現性が高まり、省エネルギー効果も期待できる。
 
(文責:池田 知司  第8巻、第1号、2004年)
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