北太平洋中層水(North Pacific Intermediate Water)
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 北太平洋ほぼ全域の300mから800mの深さに存在し、水平方向に一様な密度(26.8σθ)、塩分(33.9~34.0psu)、水温(6~7℃)を示す「水塊」(Reid,1965)。北太平洋の中層塩分極小水として知られている。ちなみに高知の室戸岬付近では、約300mの深さにあり、「海洋深層水」のかなりの部分を北太平洋中層水が占めていると考えられる。南半球海洋に存在する南極中層水(塩分極小水)とは異なり、鉛直方向に等密度層を持たないことが普通である。
 その主たる起源は、北西亜寒帯太平洋にあり、オホーツク海から流出する海水と北太平洋に存在する西部亜寒帯水との混合水と考えられている。両者の混合比は、最新の研究成果によれば4対6となっているが (Itoh,2000)、オホーツク海出口での激しい鉛直混合が、起源水のその後の物理的な動きを支配している(Nakamura et al.,2000)。この起源水が南下し、黒潮続流域で亜熱帯水と混合して北太平洋中層水となる。なお、西部亜寒帯水は、亜熱帯で変成を受けて亜寒帯に戻った北太平洋中層水と、西部亜寒帯亜表層に発達する中冷水との間での水温・塩分の交換によって形成されることが示されつつある(SAGE,2001)。補遺的な起源としては、アラスカ湾内での、表層亜熱帯系水によるアラスカ湾中層水の変成がある(You et al.,2000)。
 亜熱帯亜寒帯境界を越えて亜熱帯循環に流入する北太平洋中層水の量は、4~6×106m3sec-1である(Yasuda et al.,1996)。フレオンを利用した年代測定および地衡流による計算からは、北太平洋中層水の循環時間スケールは、日付変更線以西をまわる成分で約20年、東をまわる成分で50年程度となっている(深澤、1992;高知県海洋深層水研究所、1998)。北太平洋中層水の一部は、上にも書いたように亜寒帯循環に戻り、北太平洋の中層熱塩循環を形成している。また、他の部分は亜熱帯循環から熱帯循環に供給されると同時に、インドネシア通過流にも供給されている可能性がある。北太平洋中層水を中心としたより広大な熱塩循環系についてはこれからの研究課題となる。

(文責:深澤 理郎  第5巻、第2号、2001年)

参考文献

深澤理朗.1992. 海の中の大き対流.科学62:616-624
Itoh, M. 2000. Formation of the Okhotsuku Intermediate    
 Water. Doctoral thesis, HokkaidoUniv.
高知県海洋深層水研究所. 1998.高知県深層水研究所委託研究
 報告書(東海大学)
Nakamura,T., T.Awaji, T.Hatayama, and K.Akitomo.2000.Vertical
 Mixing Induced by Tidally Generated Internal Waves in the
 Kuril Straits. Jour. Phys. Oceanogr., 30: 1601-1621
Reid, J.L. 1965. Intermediate waters of the Pacific Ocean. Johns
 Hopkins Oceanogr. Suppl., 5: 96 pp
SAGE working group 1. 2001. Sub Arctic Gyre Experiment
 preliminary report 2001, in preparation
Yasuda,I., K.Okuda, and Y.Shimizu.1996. Distribution and
 modification of North Pacific Intermediate Water in the
 Kuroshio-Oyashio interfrontal zone. Jour Phys. Oceanogr.
 26: 448-465 
You,Y., N.Suginohara, M.Fukasawa, I.Yasuda, I.Kaneko,H.Yoritaka,
 and M.Kawamiya.2000. Roles of the Okhotsk Sea and Gulf of
 Alaska in forming the North Pacific Intermediate Water. Jour.
 Geophys. Res.,105(C2): 3253-3280

 
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